悪女の話

 

 

 こちらは、いま日本で一番マブい女たちが勢ぞろいしているドラマこと

悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~」への愛を語る記事です。

 

 

〇簡単なあらすじ

 

 今田美桜さんが演じる新入社員の田中麻理鈴(たなかまりりん)が、

 

備品管理課という社内ヒエラルキー最下層の職場から出世して、

 

向井理さんが演じる花形部署のエース、T・Oさんに並ぶべく奮闘するお仕事ドラマ。

 

 

 

 

 

 毎週水曜の夜9時から日テレ系で放送中の本作は、レディコミックスを原作とするドラマのリメイク版。

 

 

 30年前に読売テレビが制作した当時、レディコミックスのドラマ化は珍しかった。

 

 

逃げるは恥だが役に立つ」「凪のお暇」「恋は続くよどこまでも」「初めて恋をした日に読む話」「きみはペット」などなど、

 

今ではレディコミ(レディース漫画)が原作のドラマは多いけれど、

 

 

当時は特に、月9といえばラブストーリーという図式を確立した頃で、

レディコミだけでなく、お仕事漫画をドラマ化することも珍しかったらしい。

 

 

 

 さて、このドラマ全体は田中麻理鈴こと今田美桜さんが出世していく過程が主軸になっており

恋愛要素は付録として機能している点が良いということは上記からも分かるのではないでしょうか。

 

 

ただ、それだけではなく、このドラマで私が勇気づけられるのは、

 

とんでもない「「「シスターフッド」」」ドラマだということ。

 

 

 

では「シスターフッド」とはどういうものか、以下、簡単な説明をします。

 

 

シスターフッドを簡単に訳すと、「女性同士の連帯」となる。

 

この言葉が誕生したのは1960年代に起こった第二波フェミニズム運動であり、中でもアメリカが発端となったウーマンリブの頃。

 

ここで示しておきたいのは、シスターフッドと百合の違いです。

 

しかし、百合という言葉が誕生したのは薔薇族という雑誌が最初だと言われていますが、論文等で語られたことがない(私の観測圏内では)のでソースは脆弱です。

 

そこで、この記事では、百合は「恋愛/性愛関係にある女性同士の関係性」を表す語として使用する。

 

これに対して、上記で説明した通り、シスターフッドは「恋愛/性愛関係にない女性同士の連帯」を表す。

 

 

 

 

まず、現時点(2022/5/4)で登場している主な女性キャラクターは5人。

 

 

・田中麻理鈴(今田美桜) 新入社員

 

・峰岸雪(江口のりこ) 備品管理課の先輩

 

・夏目聡子(石田ひかり) 人事部

 

・三瓶花子(渡辺江里子)カスタマーセンター部

 

・梨田友子(石橋静河) マーケティング部(リサーチチーム)

 

 

この中で3話通して登場しているのは田中麻理鈴と峰岸雪の二人。

 

この二人の関係性も広義のシスターフッドに含めることはできるだろうけれど、私はとにかく第3話の話がしたい。

 

 

 

 第3話において中心となるのは石橋静河が演じる梨田友子。

 

 

彼女はマーケティング部という花形部署でありながら、その中でもリサーチチームという存続が危ぶまれるような斜陽チームで働いている。

 

 

彼女が所属するリサーチチームは、膨大なデータの中から必要な部分を抽出し分析するという仕事量に対して、あまり評価されない。

 

 

それどころか、マーケティング部のおまけ、通称「おマケ」と呼ばれているほど下に見られていたり、

 

せっかくかき集めてきたデータ資料を企画開発部などに渡しても、もう使わないからなどと言われて捨てられたりしてしまう。

 

 

そんな「おマケ」に異動した田中麻理鈴は、企画開発部の小野忠(鈴木伸之から回ってきた仕事でミスをしてしまう。

 

 

さらに、仕事が社長の息子と懇意にしている会社のものであったためチームが解散の危機に陥る。

 

 

この危機を乗り越えるために田中は、峰岸から教わった「売れない原因」を明確にして、

ミスをする原因となった商品である「スッポンスープ」の売上を伸ばすために奔走する。

 

 

 第3話における峰岸の役割は、さながら名探偵コナンに登場する蘭ねえちゃんかのように田中麻理鈴にヒントを与えており、

「売れない原因」や「貸し借りの重要性」を説くなど、後輩を導く先輩としての役割に終始している。

 

そのため、第3話で見られるシスターフッドは田中麻理鈴と峰岸雪ではなく、梨田友子との二人の関係である。

 

 スッポンスープのミスの後、梨田に、田中は1日だけついてくるように頼み、すっぽん料理を出す店に連れていく。

 

その場では梨田は協力しないと宣言するが、

 

翌日、社内でスープの配布をする田中に、企画開発部の小野が邪魔をし、暴言を吐き、

この一部始終を見た梨田は田中にやるならとことんやろうと協力を始める。

 

 

 この一連の流れはドラマではありきたりなものかもしれない。

けれど、普段から節制している梨田にとってすっぽん料理をごちそうになることはほぼ初めてだろう。自分を飛躍させてくれる存在は、現状を打破する可能性を示す。

 

また、梨田は以前、必死で作ったデータを捨てられた経験がある。

 

自分よりも上の存在(役職や部署のヒエラルキーで)である男性社員に心を折られた経験は、小野に邪魔をされる田中の姿に重なる。

 

そうして梨田は田中に協力する。つまり、同じグループに立ち向かう女性同士がここで連帯するのである。

 

 

 

 シスターフッドという言葉は、たいていは、男性優位の社会に対抗するために女性同士の連帯が必要不可欠であるという文脈で使用される。このドラマでもその社会問題は通底している。

 

たとえば、第2話に登場する、その名の通り聡明な女性である夏目聡子。

 

若くして出世していたが、ある程度の役職になった途端、まるでガラスの天井があるかのように出世の道が困難になり、とうとう、自分よりも年下の男性に追い越されてしまう。

 

田中を連れて食事に行った際、偶然居合わせた男性役員らに

 

「君が男だったらなあ」「君だけが夜中まで飲むのに付き合ってくれた」

 

「どれだけ飲んでも翌朝は綺麗に化粧して出社していた」「次の役員は君じゃないのか」

 

などというアウトなセリフを言われても、ニコニコと微笑みを絶やさなかった夏目の表情からは、

 

ホモソーシャルな社会で果敢に立ち向かってきたこれまでの軌跡を感じられる場面だった。

 

 

 また、峰岸から、出世には全員の名前を覚えることが重要だと渡された役員名簿を見た田中は、男性しかいないことに驚く。

 

このドラマは他人を蹴散らして出世することだけを目的とするお仕事ドラマではない。 あきらかにフェミニズム的視点を用いているのである。

 

 

「優秀な人間の欠点が分かる?自分が優秀であることを知っていること。田中麻理鈴は欠点も多いけど突き進む能力がある。女性社員はみんな田中麻理鈴。」

 

これは、第2話で峰岸が小野に言った言葉だが、これが指すのは女性の持つ本来の力のことなのではないだろうか。

 

優秀であっても女性というだけで梯子を外される現状を端的に語っていると考えられる。

 

 

 最後に第3話のラストで、倹約家の梨田がネイルサロンに行ったことを明かす場面がとてもよかったことを書いておきたい。

 

 同僚が定期的にネイルサロンに通うのを見ては、頭の中でそろばんを弾いていた梨田が、田中麻理鈴に借りた服を着て出社した際、その同僚に褒められたのである。

 

今までとは違う自分を見つけることができた梨田は同僚に歩み寄るかのようにネイルを自らに施す。

 

 ここで気になるのは、倹約家の梨田がマニキュアではなくネイルサロンを選択したという点である。

 

プロにやってもらうよりもセルフの方が安上がりなのは梨田も知っていただろう。しかしそれでも梨田はサロンに行くことを選んだ。

 

もしかしたら不器用なのかもしれないし、過去にセルフネイルの経験があるのかもしれない。

明かされていない以上、推測の域を出ないが、ネイルサロンに行ったことを田中麻理鈴に嬉しそうに話していたことが忘れられない。

 

 周りからは「おマケ」と呼ばれている仕事でも、梨田にとってはやりがいのある楽しいものであったことが劇中で語られる。

 

 他人から見てうらやましがられるものではなかったとしても、本人にとって心が上向きになるのであれば、それは正しいことなのだと、ラストに表現されたことが私にとっても嬉しいことであった。

 

 

 今夜10時、日テレ系で放送される第4話のタイトルは4th STAGE 男女格差(125周プロジェクト)」。TVerではまだ第3話も視聴可能です。

 

 

 

tver.jp